HACCP 食品衛生

Hazard Analysis Critical Control Point 「危害分析 重要管理点」

1960年代に米国で宇宙開発計画が推進された際に、宇宙食の高度の微生物学的安全性確保を目的に、Bauman博士、NASA、陸軍Natick技術開発研究所が共同で開発したシステム。1973年、低酸性缶詰食品に取り入れられ大きな成果を上げた。


2.HACCPの概要

(1)食品の国際交易の拡大により安全性の国際標準が必要となった。

  • 米国、欧州への水産加工製品の輸出はHACCPの規制を受ける。

(2)HACCP方式は、より安全性の高い食品を提供するため、最終製品検査法をとらない。

  • 製造工程の全てで安全性を確保する。特に工程の重要管理点で製造条件を管理する。
  • 抜き取り検査では不良品の全てを検出することは不可能。
  • 最終検査法では検査結果を確認して出荷するまでに時間がかかりすぎる。

(3)HACCP方式の規格・基準

  • 国際食品規格ベーシックテキスト第1版1999.8.25(CodexのHACCPガイドライン及び衛生管理一般原則)
  • 日本においては食品衛生法第7条3項の総合衛生管理製造過程に含まれる総合衛生管理製造過程

(4)ISO9001品質マネジメントシステムとの関係

  • HACCP方式は製造工程の管理システム
  • ISO9001はHACCP方式を含めた企業全体の品質管理のためのマネジメントシステム
  • HACCP方式を中心にし、ISO9001をベースにした食品安全のためのマネジメントシステムISO22000がある。

3.HACCPのメリット

  • 食品の安全性の確保、信頼性の確保
  • 企業の取り組みの明示、PR
  • コストの低減、資源の有効利用 (返品の減少、賞味期限の延長)
  • 検証、システムの改善 (HACCPは常に改善する)
  • 原因調査
  • 国際的整合性(米国、欧州への輸出に必要)

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4.総合衛生管理製造過程の承認制度(HACCPのこと)

1995年5月食品衛生法における総合衛生管理製造過程の承認制度を施行し、一律の規制によらない、一般衛生管理とHACCPシステムによる方法を導入した。

●認定業務を行う指定認定機関を認定(厚労大臣、農水大臣)

日本食肉加工協会、日本缶詰協会、日本炊飯協会、大日本水産会、日本乳業技術協会

●対象製品

  1. 乳・乳製品
  2. 食肉製品
  3. 容器包装詰加圧加熱殺菌食品(レトルト製品)
  4. 魚肉練り製品
  5. 清涼飲料水

5.総合衛生管理製造過程によるHACCPの申請、承認、定期検査の手順

(1)食品衛生監視員のアドバイス:厚労省の指針として、HACCPプランを作成する際には都道府県の保険所に所属する食品衛生監視員のアドバイスを受けることが勧められている。

(2)申請:食品衛生監視員と相談し、申請書を作成して厚労省に提出する。

(3)書類審査:厚労省の係官による書類審査。

(4)実地調査:書類審査後、一定期間を置いて、厚労省の係官あるいは必要に応じて食品衛生監視員による現地調査。

(5)承認書の交付:不備事項の改善を行いHACCPプランを再提出して厚労省より承認を受ける。

(6)定期検査:都道府県の保険所の食品衛生監視員による定期的な立入り検査がある。HACCPプラン通りに行われていない場合、一部変更の承認を受けていない場合は承認の取り消しもありうる。

(7)一部変更:HACCPプラン(総合衛生管理製造過程)の変更を行う場合には、食品衛生監視員に相談し、変更申請書を出して承認を受ける。

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6.総合衛生管理製造過程対象以外のHACCPの認定

  • 前記の対象製品以外のものについてHACCPの認定を受けるには、民間の審査機関による第三者認証がある。
  • 審査、認定の基準は、国際食品規格ベーシックテキスト第1版1999.8.25(CodexのHACCPガイドライン及び衛生管理一般原則)
  • 審査機関の例:JQA 等

7.HACCP12の手順と7つの原則

手順 1 HACCPチームの編成

手順 2 製品の特性についての記載

手順 3 意図する用途の確認

手順 4 製造工程一覧図(フローダイヤグラム)の作成

手順 5 フローダイヤグラムについての現場検証

手順 6 原則 1 HA(Hazard Analysis)危害分析とその防除処置の確認

手順 7 原則 2 CCP(Critical Control Point)重要管理点の設定

手順 8 原則 3 CCPに対する管理基準(Critical Limit)を決める

手順 9 原則 4 モニタリング-CCPに対する監視、測定方法の設定

手順10 原則 5 改善措置-基準からの逸脱時に取るべき修正処置の設定

手順11 原則 6 検証(Verification)-確認試験の設定

手順12 原則 7 記録(Record keeping)-文書作成、記録保存の規定

8.一般衛生管理事項(GMP、PP)

HACCPの土台となる科学的合理的な一般衛生管理の設計・実施

(1)施設・設備

  1. 食品工場の衛生的設計
  2. 環境の衛生的および物理的管理
  3. 鼠族・昆虫の防除設備と日常の鼠族・昆虫駆除計画
  4. 衛生設備と管理
  5. 廃棄物の処理

(2)機器の設計及び使用上の考慮事項

  1. 機器の規格及び仕様書
  2. 機器の清浄化性と洗浄・消毒法の標準化
  3. 食品の汚染防止
  4. 機器の監視装置
  5. 機器の据付けと配置

(3)洗浄と消毒

  1. 洗剤の性質をよく知ること
  2. 洗剤を選ぶときの注意事項
  3. 洗剤と消毒の原理
  4. 洗浄消毒計画
  5. 洗浄・消毒の実施方式

(4)従業員の健康と衛生管理

  1. 従業員の健康と衛生管理の重要性をよく理解すること
  2. 食品取扱者の健康管理
  3. 従業員に対する衛生教育
  4. 個人衛生

(5)原材料の受入と保管

  1. 生鮮原料、生鮮以外の原材料および包装材料の受入
  2. 保管

9.HACCP手順の概要

手順 6:原則1 HA危害分析と防除方法

(1)危害とは、食品を喫食することにより、人の健康を損なう恐れのある因子

  1. 生物的(B):微生物(代謝物を含む)、寄生虫、自然毒)、特に食中毒細菌がHACCPによる衛生管理の中心になる。
  2. 物理的(P):硬質異物(金属、ガラス、石、骨)、軟質異物(ネズミ、昆虫、毛髪)硬質異物を特に取り上げる。
  3. 化学的(C):マリントキシン、マイコトキシン(カビによる)、ヒスタミン(微生物増殖による)、食品添加剤(保存剤、発色剤)、農薬、動物用医薬(抗生物質、駆虫剤)、化学的有害物質(PCBなど)、洗剤・殺菌剤、アレルギー物質。

(2)危害の防除方法(微生物制御技術)

  1. 殺菌:加熱殺菌(温度と時間、水分)、殺菌剤(食品添加物、環境殺菌剤)、紫外線、放射線(γ線、電子線)。
  2. 静菌(増殖抑制):低温保存、ガス置換、食品添加物。
  3. 洗浄:洗剤(殺菌剤を含むものもある)、包装(汚染防止)。

(3)ハードルテクノロジー

温度(加熱、冷却、冷蔵)、水分活性、pH、気相(酸化還元電位)、保存料(亜硝酸塩など)、拮抗的な微生物などの組み合わせで有害微生物を制御する。

手順 7:原則2 CCP重要管理点の設定

危害リストのそれぞれの項目について、CCPとなるかどうか決定する。

1)一般衛生管理プログラム(環境整備を含む)で改善できない工程が含まれる。

2)防止措置のないものはCCPとならない。

手順 8:原則3 管理基準(Critical Limit)

各CCPについて基準値を設定。

1)簡単に測定できるパラメータによる基準値

2)微生物検出に対しては間接的な方法で

pH、水分活性、食塩、酸素、抗菌剤、汚染微生物の相互間系(フローラ、菌数)

貯蔵温度、加熱温度、ガス、紫外線

肉眼的所見、外観、テクスチャー

手順 9:原則4 モニタリング

各工程(CCP)の管理基準が守られているかどうかを連続的、迅速に判定する具体的手段。

1)モニタリング方法の設定 何を、どの様に、何時何回、誰が

2)全製品について、非破壊、記録できること

温度、時間、pH、水分活性、官能的(製品形状、色調、光沢、異物、臭い、硬さ、粘度、空泡など)。

手順10:原則5 改善措置

1)管理基準からの逸脱があった場合の改善措置、マニュアル化すること。

2)CCPを正常状態に戻すものでなければならない。

3)逸脱時の製品の取り扱いを定めておくこと→廃棄 等。

手順11:原則6 検証(Verification)

(1)検証対象

  1. CCPの管理状態
  2. 記録の適正性確認
  3. 原料、中間製品、最終製品の試験検査による確認
  4. モニタリング器機の校正(キャリブレーション)
  5. モニタリング、試験検査方法の適性度
  6. 管理基準の適正性
  7. 逸脱時の処置
  8. HACCPシステム全体の機能性

(2)検証の方法

記録、試験検査(微生物検査も含まれる)、キャリブレーション、HACCPプラン全体の見直し。

(3)検証作業に規定すべき事項

担当者、頻度、検証結果に基づく措置、検証結果の記録

手順12:原則7 記録(Record keeping)

(1)総括表(Generic model) HACCPプラン

CCPの工程について、原材料、危害原因物質、危害の種類、発生要因、防止措置、管理基準、モニタリングの方法、改善措置、検証方法、記録文書名を一覧表にしたもの。最低限のものをコンパクトに

(2)受入れ検査記録表

検査項目、必要な添付書類を予めリストアップしておき、Lot毎にチェックする。

受入検査記録表を使用

(3)製造工程の管理記録表

製造工程の各段階(原料から出荷まで)にそって決められた頻度で(例えば1日1回)、一般衛生管理事項を含めてCCPに対する管理が適切に行われているか記録する(チェックする)。

管理記録表を使用

(4)必要な記録

  1. CCP重要管理点におけるモニタリング結果の記録
  2. CCPにおける改善措置実施結果の記録
  3. 一般衛生管理プログラムの実施結果の記録
  4. 施設・設備の衛生管理、保守点検
  5. 機器器具の衛生管理、保守点検
  6. ねずみ、昆虫の防除
  7. 使用水の衛生管理
  8. 排水、廃棄物の衛生管理
  9. 従事者の衛生管理
  10. 従事者の衛生教育
  11. 原材料、製品等の衛生的取扱い
  12. 換気、空調設備の衛生管理
  13. 製品の管理
  14. 製品等の試験検査に用いる機器器具の保守点検
  15. 検証の実施結果の記録